
「急にリクライニングされて飲み物がこぼれた」「なぜ声かけしないのか」など、しばしば発生する新幹線や特急列車などでの座席リクライニング問題。
明文化されたルールも、特にありません。
無言で倒す人が悪いのか、そもそも声をかける必要はないのか――。鉄道ライターがその経験などを元にお答えします。
なおこの記事では、普通車の座席について述べます。
リクライニングの嫌なところ
新幹線や特急列車などで前席の人が座席をリクライニングしたとき、後席の人が感じそうな「嫌なこと」には、どんなものがあるでしょうか。
- 背もたれが動いたことにより、テーブルが揺れる、飲み物がこぼれる
- 背もたれが斜めになったことでテーブル上の空間が狭くなり、置いていた物が押し出される、物を置きにくくなる
- 目の前の空間が背もたれで圧迫される、狭くなる
- 自分の空間が奪われたように感じる
- 席への出入りがしづらくなる
- 急にリクライニングされたらビックリする
- 前席の人の頭が視界に入ってきて落ち着かない
こんなところでしょうか。
では、そのとき後席の人が感じそうな「いいこと」には、どんなものがあるでしょうか。
- ……?
思いつきませんでした。
改めて考えてみるとリクライニング、後席の人にとっていいことが何もないですね。
トラブルになるわけです。
しかも新幹線の場合、その座席は回転できるよう、デフォルトの背もたれ角度が急です。軽く倒して使うことを想定しているように思います。
トラブルになるわけです。

リクライニングは正当な権利?
「座席をリクライニングさせること」は、その席に備わっている機能です。
なので「座席をリクライニングさせること」は、基本的にその席を利用している人が持っている権利だと、私は思います。
対し、後席の人が前席の人に座席をリクライニングさせない権利、その角度を制限させる権利はあるのでしょうか。
そもそも座席自体がリクライニングできるよう作られており、それがその座席のサービスなので、そのサービスを使わせない権利は誰にもないでしょう。
後席の人がテーブルの上を広く使う権利は、特にないと思います。リクライニングされていないとき、広くなっているだけで。
「リクライニングは後席の人の許可を取ってから」といったルールがあれば、後席の人にもリクライニングに関する何らかの権利があるとも考えられますが、私は昔から聞いたことがありません。
そりゃあトラブルにもなります
とはいえ、仮に先述した理屈的なものが正しいとしても、嫌な感じになる場合があるのも確かですよね。
そもそもリクライニングは「後席の人にとって何もいいことがない」わけですが、ひとまず、それはそういうものだとして受け入れるとしましょう。
しかしリクライニングによって「飲み物がこぼれる」「置いていたものが押される、落ちる」といった具体的な問題が発生することがあります。
ただでさえいい気分がしないのに、実害まで発生したら、そりゃあトラブルにもなりますよね。
ただ、リクライニングで問題になるようなものをテーブルに置くな、というのは違うと思います。
新幹線のテーブルに一般的なノートパソコンを置き、ふつうに使っている程度でも、深くリクライニングされたら、ノートパソコンは背もたれに押されますからね。
500mlのペットボトルだってあたります。ふつうにテーブルを使っていても、トラブルは起こりうるのです。
問題になるような置き方をしたり、巨大な何かを置くとかは別ですが。

ではリクライニングどうすれば?
では、新幹線や特急列車での座席リクライニング、どうしたらいいのでしょうか。
大なり小なり配慮が必要なのは確かだと思います。
いくら権利があったとしても、結局は人と人が同じ空間を共有するなかで行うのですから。「権利」ばかりを振りかざしていたら、この場に限らず上手くいきません。
では、どんな「配慮」が必要なのでしょうか。個人的な考えを述べます。
勢いよく倒さない
私的には、これは「必須」です。配慮というかマナーというか、そうしないと実害が発生しかねません。
そもそも優しく、少しずつ倒していくのが「リクライニングの使い方」だと思います。
倒す前にひと声かける
私が倒される側だったら「不要」だと思うものです。少なくとも、軽く倒すぐらいなら不要だと思います。
リクライニングされることは想定していますし、勢いよくドカンとやられなければ、困ることもありません。テーブルに置いていたものを動かさねばならない、といったことはあるでしょうが、そういうものです。
テーブルの使用状況などから、リクライニングしても明らかに問題なさそうなのに声をかけられたら、正直、応対が面倒だと思う人もいるでしょう。
とはいえ自分が倒すとき、リクライニングすると問題が起きかねない場合は一声かけるかもしれません。
ただその場合でも、「倒してもいいですか?」と同意を得る聞き方は避けたいと思います。後席の人に伝える必要があったとしても、「許可」を得る必要はないためです。
ひと声かけたほうがいいなと思った場合、私だったら、失礼のないように気をつけて「倒しますね」と伝えるでしょうか。気持ち的には「すみません、倒しますね」なのですが、「すみません」と口にして「すまないと思うならやるな」とか言われても嫌なので。
フルリクライニングはしない
私的には、「そこまでしなくてよい」と思います。
私はリクライニングについて、その使用は乗客全員が等しく持っている権利で、それを行使するもしないもその人次第、その行使について他人がとやかく言えるものではない、また後席の人に前席のリクライニングに関する権限はない、というのが基本的な立場です。
なのでリクライニングするにも限度がある、というのはピンときません。配慮する必要がまったくない、ということではありませんよ。
そりゃあ私も正直にいえば、フルリクライニングどころか、少しも倒されないほうがいいですけども、それはわがままですよね。
昔はあまりなかった気がするリクライニング問題
こうしたリクライニングの問題は昔――1990年代ぐらいまでは、あまり聞かなかったように思います。
「リクライニングは声がけがマナー」といった話をよく耳にするようになったのは、夜行高速バス(ツアーバス)が広く浸透してきた2000年代に入ってから、かもしれません。
夜行で走る車内が狭いバス。フルリクライニングされると身動きが取れない、トイレにも行けない、いきなり全開で倒されて頭を打ったなど、ネット上でもいろいろ言われていました。
こうした夜行高速バス車内においてその後、「リクライニング前の声がけ」がバス会社側から推奨されたこともあってか、夜行高速バス以外のリクライニングに関しても「声がけ」がマナーとして広がってきた印象が少なからずあります。
それまでも、そのころも、新幹線や夜行列車でリクライニングシートがふつうにありましたが、バスにくらべて空間に余裕があるせいか、問題化や、「声がけがマナー」的な考えは目立たなかったように思います。

常識が違いすぎるリクライニング
新幹線、特急列車などの座席リクライニング問題。個人的な見解を書いてきましたが、納得できない方もいらっしゃるでしょう。
そうだと思います。そもそもこの問題は次のように、常識が人それぞれ食い違っているのです。
- 座席がそうなっているのだから同意は不要
- 座席がそうだとしても同意が必要
- 同意は不要だがマナーとして声がけすべき
- 同意は不要だが限度がある
- その他
トラブルが発生して当然ですね。しかも先述の通り、後席の人にメリットゼロですし。
昭和生まれの私にとって、「リクライニング前の声がけ」がマナーだという考えは、平成の中盤以降、2010年代ぐらいから聞くようになった気がします。
もちろん「そんなマナーは昔なかったんだから関係ない」と言うつもりは全くないです。マナーやルールは、時代によって変わるものでしょう。
ただ、人それぞれ、また世代のズレによる認識の違いが存在するのもまた、確かだと思います。
新幹線や特急列車といった公共の場で、人と人が空間を共有する以上、そうした認識の違いがあることを、お互いが考えねばならないでしょう。「それが権利だ!」「それがマナーだ!」と言い合ってても、始まりませんよね。
そもそもそんなに倒したくない
私は新幹線や特急列車などで、リクライニングを全開にすることは基本的にありません。
軽くリクライニングする程度が、いちばん楽です。寝る場合でも。10度ぐらいの傾きでしょうか。
フルフラットレベルになるなら、そうしますけどね。
「全開がいちばん楽だ」という先入観がもしあったとしたら、いったん捨ててみることをオススメします。
ちなみに、超電導リニアモーターカーを使う中央新幹線ではリクライニング問題、発生しないかもしれません。試験中の車両で、リクライニングしない座席が採用されているからです。
乗車時間の短さが理由のひとつで、背もたれは最初から15度傾斜しているとのこと。
個人的には現在の新幹線も、リクライニング角度を最大でそれぐらいにしていいと思っています。
